忍び寄る蛇蝎のゴーストノート

 

四月一日(土) 含蓄に富む年上の方が会話の中で「身分相応、家賃Wow Wow」と述べられた。こちらの大胆な聞き間違いだと思うが、問題は本当に「身分相応、家賃Wow Wow」と言っていた場合にある。

四月二日(日) 何不自由ない裕福な家庭に生まれ育ち一流大学を滞りなく卒業した男がこの度「ランチパック占い」というコンテンツを膝をガクガク震わせながら立ち上げようとしている。よし、まずご両親に謝ろうか。一緒に行って頭下げてやんから。な?

四月三日(月) 出前館の配達員が玄関先でお釣りの計算にてんやわんやの間、こちらはこちらでスポーツ刈りとスポーツブラが結婚した場合その子供はスポーツヘアバンドになるのではないかとの考察に勤しむ。

四月四日(火) なぜに女は車のドアを親の仇のようにブァコン閉めるのだろうか。前世が国境の門番だったのだろうか。

四月五日(水) とうとうなか卯に飽きてしまった。ならば飽きた状態に飽きるのを待つ。これが漢のなか卯道。

四月六日(木) 赤提灯にて偶に境を接した同世代の行員と懇談に至る。やはり大人の四方山話とは仕事に行き着くものであり「今の職場に入って六年経つのですが一度だけ手刀を使ったことがあります」との告白を受ける。

四月七日(金) 気まぐれな父に苦労する母を見て育ち、ああはならぬと懸命な努力を重ねて腕利きの料理人となったが血は争えずにシェフの気まぐれサラダ。

四月八日(土) 「おじさん思うに音楽とは色の付いた時の経過だと思う」と二十も届かぬ女に説いたところ「キモ!」と言われたのでこちらも「キモ!」と言い返した。もっともこちらはM心から来る「気持ちいい」の「キモ!」ですがね。グフッ!

四月九日(日) 昼休憩の植木屋トークが耳に入る。「お前、朝起きたら大谷翔平だったらどうする」というベテランからの問いに若手より「靴がないですね。サイズ的に」との泣く子も黙る超現実的な答えがあった。伸びる、彼の仕事は伸びると思う。

四月十日(月) かれこれ二十年近く一人暮らしをする男が深夜の小水に立った。用を足し終え床に戻ると抱き枕に「ヘイ、ボーイ。あたいのパンティーを全部隠したのはお前かい?」と国籍から立ち位置まで全くわからない台詞をごく自然に発してしまったという。そしてそれは一人で生きてゆく決意を固めた瞬間であったと次いだ。

四月十一日(火) さて、引き出しより発見された阿部寛の友人のサインはどうするべきか。

四月十二日(水) なるほどね。暗がりにゴムを探り当てたと思いきやカップラーメンに付属する焼豚だった的なね。あ、違げんだ。

四月十三日(木) 十数年前、南米ペルーより日本に移り住んだ男が懐古するにはOKサインに多大なる衝撃を受けたという。肛門という意味合いでそのサインを認識していたところ、若い日本人の女があるまじきダブル肛門サインをまさかの手眼鏡として装着、さらには満悦にも舌をベロンと出して写真撮影に嬉々と臨んでいるではないかと。なんならその脇で土嚢を枕代わりに眠るホームレスのおじさんが上品に見えたという。

四月十四日(金) なにもウンコの肩を持つわけではないが彼は常に男の在るべき姿を示している。まず良きにつけ悪しきにつけ圧倒的であるということ。そしてそれだけでなく老若男女を爆笑に導く才をも兼ね揃えており、女の扱いなどお手の物、臭い台詞を憚かることなく常に匂わせる。然りとて男の機微にも通じており、つまらないことはすべて水に流してくれる。総じて漢の在るべき姿であろう。

四月十五日(土) 公衆便所の落書きに「生まれ変わってもあなたのおちんちんでありたい」とチンコサイドより切なる願い。

四月十六日(日) お前な、留守電に知らない番号から「はっ、あだすです。あれから色々考えますてな、やはりベニヤでお願いしようかと思いまして。ん、や、違う、違うな。また連絡します」と純度の高い一人相撲メッセージを残された俺の気持ちがわかんのかよ!

四月十七日(月) ふと目についたNHKにて小さな女の子が「おばあさんおじいさんいつもありがとう」と平素の謝意を示すほのぼのとしたシーンにぶつかる。今日日らしく「おじいさんおばあさん」という慣例の並びではない。しかしだね、それがまかり通ると童話桃太郎に甚大な影響が出んの!「おばあさんは川へ洗濯に、おじいさんは山へ柴刈りに行きました」となるとじじいの山映像が邪魔でばばあがスッと桃待ちの体勢に入れないの!わっかんねぇかな!?テンポの話よテンポの!

四月十八日(火) 高尾山(表参道コース)は思いの外にカジュアルな山道であった。こちらが前夜より善かれと備えた人数分のスニッカーズが恥ずかしいくらいにカジュアルな山道であった。結局スニッカーズは社内恋愛の如くに隠し通し、独りになった帰路にて一口齧れば待ってましたとばかりに詰め物が取れる。そんな自分を嫌いになれねぇのよ。

四月十九日(水) 某コーヒーショップの常連である男が深く傷ついていた。なんでも若い従業員達から「ソイメガネラテ」との名前より長いあだ名が付けられていたという。

 

fin