月別: 2025年2月

しばりしばられ虎ロープの唄

 

二月一日(土) 心ある者が拾い上げたのだろう。ポストの上に一本の鍵がのっていた。そのタグには「来客室&社長室」としてある。想像するに居場所を失った社長と来客はパチンコ屋への両替にでも駆り出されるのではないか。

二月二日(日) 巷のファッションフォトには横を向いて写る者が多い。撮影中に何をそんなに見ているのか。ママチャリのケンケン乗りが上手くできないジェット・リーでもいるのか。

二月三日(月) 富士そばのスタッフオンリーと記された扉からジュラルミンケースに熱々の蕎麦をのせた外国人紳士が出てきた。思うよりも世界は広い。

二月四日(火) 粗忽にもアーモンド小魚をすべて床にぶちまけたとき「言葉とはその意味を限定させて思考の無尽蔵な広がりを断ち切るツールである」と考えついた。しかしそんなものはとうの昔に考え尽くされており、その先人方はとっくに生まれてとっくに死んでいる。干からびた小魚が二匹、人を示している。

二月五日(水) 「ねぇ!たい焼き屋さんの前で待ち合わせって言ったわよね!?私ずっと待ってるの!早く来なさいよ!もうどんどん焼き上がって」と電話の向こうに憤怒する中年女性をみた。

二月六日(木) まぁインプットとは誰かのアウトプットなのですがね。なに見てんだコラァ!

二月七日(金) 日本酒の試飲会なるものに出席。獺祭スパークリングがよい仕事をして酩酊。袖を接した知らぬ男と「よくわからないことを言ったら勝ちゲーム」に興じる。彼は「ファミリーポンセ」といった。「あぁ、これは明日の夜中に効いてくるやつだな」と思いました。

二月八日(土) 俺が女子高の校長ならば制服は廃止、ピアスや染髪などの校則は撤廃する。その代わりにありきたりな格好では門をくぐらせない。喪服にヤンキースキャップ?んん、そこは白無垢にヘッドギアかな。でもいい線いってんわ、うん。

二月九日(日) ギターで殴ればそらもう打楽器なのよ。そうなのよ。

二月十日(月) マイアミ・ソウルの名曲であるTimmy Thomasは『Why Can’t We  Live Together』。その素朴なリズムの反復は人々が願う穏やかな日々のこと。なんだかしんみりしたのでちょっとバランス取りますね。まんこ。一応まんこ。

二月十一日(火) 世界最高レベルの解析能を有する電子顕微鏡の製作に携わっていた方との懇談に恵まれた。「最小の世界は最大の世界と同じだというのは飽くまで感覚的なものですか」と問わせていただいたところ「構造的にそうでないと辻褄が合わないというのが本当です。そしてそれ以上考えてはいけない。絶対にいけません。頭がおかしくなる」とのこと。そして「だから私はいつもポケットにぷっちょを忍ばせていました」と仰られた。おそらく現世の実感を保険的にそこへ置かれたのだろう。確かにバブリシャスでは強すぎる。貴重なお話をありがとうございました。

二月十二日(水) キノコ鍋にあたり、三日三晩苦しみ、それが回復したのち、テンションが上がり、髭面に赤いキャップを被り、公園の土管に入っていった年上の方は、それはもう泣ける程にマリオでした。

二月十三日(木) 落ち着いて聞いてほしい。貴女には自転車のスタンドがしばらく乗ってから上がり切る現象の名付け親になってもらいたい。

二月十四日(金) 顔なじみである耳の遠いホームレスのおじいさんに「今日はバレンタインだけどダンボール何個もらったのよ。この色男が」と他愛もない冗談を飛ばしたところ「先週はダンボール三枚もらったよ」とのこと。

二月十五日(土) んな同窓会の発起人をするような育て方をした覚えはありませんよ。

二月十六日(日) んな己の個性を眼鏡のフレームに全て注ぎ込むような育て方をした覚えはありませんよ。

二月十七日(月) 性行為の快楽とは創造主の妥協なのだと仮定してみる。やめてみる。

二月十八日(火) 上馬の交差点にてバイクと車の事故を目撃する。こちらもそのような経験が何度かあり、あの当事者が受ける独特の血が引くような不快感は表現に難い。それでも個人的な独断で言い表せば焼いたレバーにパクチーをのせたものをオーバーオールの肩紐を片方外した汗だくの伊藤英明が持って来たような。

二月十九日(水) TOKYO CITYは風だらけ

二月二十日(木) 財布をなくして落ち込んでいる年上の方に「やはりUFOにも半ドアとかあるんですかね」と問うてみれば「そらありますよ!」という力強い即答をいただきました。

二月二十一日(金)「妻の実家で無口な義父と二人きりで観る駅伝中継ほど辛いものはない」と新婚の男が吐露におよぶ。無言が続く緊迫の中、義父が「すごいねぇ。自転車より早いねぇ」といった。受けてその男、動揺より咄嗟に「ヴァス!」という日本語にはない返答を発してしまう。そしてその声を聞いた義父は昨年末に天に召された犬の小屋の方をみたという。

二月二十二日(土)「選ぶ」とは「え、ラブ」ということさ。

 

fin