月別: 2024年6月

クリームがかる緑と紫の狭間で

 

六月一日(土) 近所に新築の家屋が建つようで地鎮祭のセッティングが厳かに行われていた。近くに停まるステップワゴンに目をやると扉が全開となっており、中に座する神職の方が女子バドミントン奥原希望選手のサインばりに絡まったイヤホンのコードを解いていた。なにかいたずらにお守りを開けてしまったような涜神たる心持ちに沈めば初夏のこと。

六月二日(日) 高速道路を逆走する者が後を絶たない。ならばその者、着ているTシャツも裏返しでなければおれを納得させることはできない。できないぜ。

六月三日(月) 確かにサングリアをサンガリアと言い間違えた客に強炭酸水をサーブするような小粋なバーテンダーに憧れていた時期もございました。

六月四日(火) 来たる新時代には「村一番のヤリマンカツカレー」を三十秒のジェスチャーのみで先様へ伝え切る力が須要となるだろう。

六月五日(水) 話せる連れの者と「死とは正解か不正解か」という夜深のテーマに論じる。多角的な意見が交わされるにつれ感傷も入り混じれば色濃い有意義な時が流れた。結論には至らぬまでも「ライスペーパーを丸めれば大きな米粒になると思っていたら大火傷すっぞ!」という互いの共通認識に落とし所をつける。

六月六日(木) クリオネに、腹巻きを、着せようとした、ギネス級に、お節介な、男を、知っている。

六月七日(金) 銀行の窓口にて番号札をもらい座して待つ。そこへハンチングを被った中年男性が来店し案内役の行員に「あの、カードも通帳も印鑑も免許も保険証も失くしたのですが今の私に出来ることを教えてください」とほとんど強盗みたいなことを告げた。あなたは滝に打たれなさい。

六月八日(土) 年上の方が会話の中で「トップシークレットブーツ」と真顔で仰ったのだが、隠し事の順位までは知らんがな。

六月九日(日) 本日、ロックの日。右手を最大限に広げ、親指と中指で両乳首を触るという破天荒な行為に及ぶ。

六月十日(月) 諸説の弱い勢に愛嬌を感じます。

六月十一日(火)  永遠というものは存在しない、永遠に。

六月十二日(水) 世の中に言い切れるものはごく少ないのだが、自分は幼いうちに意図せず発している。それは近所の女の子とシルバニアハウスでままごと遊びに興じていた時のこと。こちらが「じゃあお父さんはもう寝るから」と二階へ続く米海兵隊のブートキャンプばりにそそり立つはしごを登り切ったと思いきや、迂闊に手を滑らせ父ウサギを垂直に滑落させてしまった。女の子は「お父さん!お父さん大丈夫!?誰か救急箱!誰か救急箱を!!」と大いに取り乱した。そこへ反射的に放った「箱より車!」という幼く甲高い我が声が未だ脳裏にこだまする。

六月十三日(木) シャングリ・ラ東京はラウンジにて古い友人と落ち合う。彼を真似ては山崎12年、そのチェーサーにフレッシュメロンジュースが寄り添えばそこは都心の喧騒を浮力とした二十八階のラグジュアリープレイス。我々は摩天楼を視界に据え置き「忘れられない屁」という話題に語らう。互いの屁のような屁のエピソードは屁にも関わらず不発に終わる。

六月十四日(金) 今日も日本のどこかで「パンツなんてただの布じゃん」と女はいう。その一件につき我が家のドアスコープが外側に1センチずつせり出す。だからもうそういうこと言わないでくんない!?

六月十五日(土) 近頃は高齢ドライバーがコンビニに突入するというニュースに出くわす度にお後は四十年も経てば我がことだと身につまされる。想像するに散らばったガラスの破片やひん曲がって倒れた棚に囲まれてどのような顔つきで車から降りればよいのか。そしてその開口一番にはどのような言葉がふさわしいのだろう。結局のところ驚愕と困惑にうっすらと絶望の微笑を浮かべては「今夜九時からダイハード3!」しかないのか。

六月十六日(日) 今年の聖夜に向けてサンタクロースが半年がかりの準備に入ったと聞く。毎年恒例の「えっと、手袋手袋、あったあった」と鍋つかみ。そこへおばあさんによる強めの肩パンが入ってはこれもまた恒例のようで。

六月十七日(月) 髪をほどいた 君の仕草が がんもを長押ししているようで 胸が騒ぐよ

六月十八日(火) 男子中学生が隣を歩く学友に「金玉って色的には銅玉だよね」といった。水たまりに緑葉が浮かぶ。日本の未来もそう悪くはないのではないか。

六月十九日(水) 近頃いたくお気に入りであるチキンサンドのキッチンカーについて夢中に語るがゆえにチッキンカーといってしまった年上の方の心のケアはいかにして。

六月二十日(木) とある翻訳サイトで微糖のパンチパーマを英訳したところ、間もなく画面がフリーズを起こし、出前館より遅配メールが届いた。お気をつけください。

六月二十一日(金) デリケアM’sをDCM’sと呼んでんのは関東甲信越でお前だけだぞ。

六月二十二日(土) 「昨日彼女に思いっきりヴィンタされまして」じゃねぇ!

 

fin