月別: 2023年11月

異母姉妹都市

 

十一月一日(水) 「わからないことはいつでも気軽に聞いてくれ」とおっしゃる右党の方が麦焼酎アクエリアス割りでスポーティーに悪酔いを起こして吐きまくった。その背中へ「なぜ若者は髪を染めるのでしょうか」と投げ掛けたところ「オウェェ!それは、それはだねゴフォ!やはり、やはりだねヴォェエエ!新たな自分とオロロ!新たな自分と出会いたいからじゃないかオロロロロ!!」とのご返答を頂きました。ありがとうございます。

十一月二日(木) 職を失い妻にせつかれコンビニのアルバイトに応募した男がいる。極度のあがり症から前職を問われた際に「トラックに野菜を積んで納品してみました」というお茶目な思いつきのような感じになってしまうが結局は採用を得たと聞く。おそらく向こうも「採用してみました」のような感じなのだろう。

十一月三日(金) 恩を仇でもなくベルマークで返してこないの。ね、約束。

十一月四日(土) プロのトレーナーがパイ筋とか言わないの。ね、約束。

十一月五日(日) トム・ヨークのツェルマット・アンプラグドをYouTubeにて鑑賞。素晴らしい。さらにその後にはシャンプーの詰め替え作業という素晴らしい日常が控えている。

十一月六日(月) 所用のついでに青山は骨董品店。さっそく目についたのはアフリカン・アンティークなるロングベンチ。それは極めて素朴な造作であるが腰掛けては感ずるところ乾いたアフリカの大地に陽が昇るよう。しかしその眩しい光は書籍その他で以前より魅かれていた黒絵式ギリシア壺が発するものであった。さて肝要である神話に基づいた影絵こそどのような具合で焼きつけられているのだろう。それが滑稽であればあるほど神々を介した人間の営みが如実と浮き彫りになり芸術の核に近づく。いざ刮目に至ればミューズ的な女性が何かを拾う所作があり、その真横では腰巻きを身につけた下僕の男がチャリンコの空気入れをスコスコするような体勢があった。これミューズ姐さんタイヤのゴムキャップ拾ってんな!

十一月七日(火) 人はよいのだが何を言っても張り合ってくる男がいる。こちらが「この前お金の本質は時間の短縮だと聞いて雷に撃たれた心持ちがしたよ」と口にしたところ「僕の手作り石鹸仲間なんて本物の雷に撃たれたことがありますよ」という。手作り石鹸あたりに人のよさが香っているのだがやっぱり張り合ってくるんだよなぁ。

十一月八日(水) 他者の労働に対して慈しみを覚えたのならその者の義務教育はそこで完結する。ちょっと真面目なことを言ったのでバランス取りますね。ビラビラ!もうビラッビラ!

十一月九日(木) 少し愛に欠ける物事として「現地解散」がまずその筆頭に挙げられるわけですが。

十一月十日(金) 思い返す今年の正月明けにオーストラリア人のA君その他数名とカラオケに興じた。彼は『わたしがオバさんになっても』の歌詞をきっかけに日本語を学んだといい当然そのレパートリーに組み込まれていた。しかし完璧な発音で進行するも「オープンカーの屋根はずしてかっこ良く走ってよ」の部分で彼は「オープンカーの屋根はずれて」と気持ちよく歌い上げてしまう。ここですぐさま訂正するが真の交友というものではないか。人のいないタイミングを見計らい「あのA君、オープンカーの屋根がはずれたらもうちょっとした事故なの」と事細かに説明したところ彼は真摯な理解をこちらに示した。そのようなことを思い出しながら彼より届いたメールを開いたところ、何やら同郷の者たちと浅草で観光を楽しんだようで「浅草の飲み屋さんでハメはずれて」としてある。あぁA君、そこなの、そこなのよ。

十一月十一日(土) 一ヶ月前にホームレスのおじいさんに超ハードグミ・コーラアップを一袋進呈した。先ほどばったり出くわしたのだが二本あった貴重な前歯が一本しかない。私、新たな十字架を背負って生きてゆきます。

十一月十二日(日) 声を震わせながら「東京23区すべて行ったことがあります」と嘘か本当かまったくわからないことをいう者がいる。

十一月十三日(月) 全国の観光地に設置された顔はめパネルを司る神が浴槽に降臨された。そしてこちらに「トム・ウェイツは日本でいうさだまさし?」とお尋ねになられた。去ねオラ。

十一月十四日(火) 発狂の恐ろしさとはその間にも傍目を感じることなのです。

十一月十五日(水) 出張のついでと急に泊まりに来た義父がYESNO枕の「YES」で寝始めたような灰色の空を仰ぐ。

十一月十六日(木) ちゃんとちゃべれ!

 

fin