十月一日(土) 十代より狂った男に焦がれてきたが近頃そうでない。狂った男となったのだろう。
十月二日(日) 妻の悩みはその時代を色濃く映し出す。マンモスを追いかけていた時代には「旦那の持っている槍の先がすべて丸まっている」と死活に悩み、悠久の時を経た現代では「旦那がずっとスマホゲームをしてゴロゴロしている」と悩みは尽きない。百年後には「旦那のHVGプロピレンダブルコネクターが常に丸出しになっている」とでも悩むのだろう。
十月三日(月) 知り合いの奥さんが大学時代の友人たちとバンドを組んだという。それも奥さんがボーカルをとり、さらにはオリジナル曲の作詞まで担うという。夜な夜なノートにそのひらめきを書き綴り、読み返しては首を傾げ、それでもなお諦めない姿は妻の新たな一面にしてそれはアーティストといって何ら差し障りのないものだと言う。強いてネックを挙げるのならば「じゃあ先に寝るわ」と彼がいつものようにアイマスク、耳栓、マスクを装着して寝入るとしばらくして揺り起こされ「ねぇ、この世界が嫌いなの?」と奥さんのアーティストモードが今夜も発動するであろうと。
十月四日(火) 秋の夜長を持て余すことベランダにて紫煙を立てる。月光に導かれ「お前の母ちゃん出ベソ」という罵りワードにそこはかとない猥雑の感を捉えた。罵りを受けた者より「なんで知ってるの?」と返されたのなら閉口より術はない。これはもうペタジーニのみに許された言葉なのだろう。
十月五日(水) 前を歩くふたりの男子中学生。ナイキのスニーカーを履いた子がアディダスの子に向かって「お前ガリガリ君とからあげクンばっか食ってたら頭バカになるぞ!」と声高に忠告。あぁ、友情ってこんな感じだったっけ。
十月六日(木) 夢の中に時任三郎が現れ「君はスポーツチャンバラの臨時コーチみたいな顔をしているね」といって金縛りスタート。
十月七日(金) 蝿叩き工場の蝿のような生き様、妬けるぜ。
十月八日(土) なか卯笹塚店にて作業着姿のタフなる男たちが語らうには。「人生は近眼のバドガールだと思う」「わかるわ」わかんねぇわ!
十月九日(日) だって来世は宮大工か秋のカナダになりますし。
十月十日(月) 気づくか気づかないか。それに良し悪しはないと気づくか気づかないか。そしてそれに気づいたとて何も意味がないことに気づくか気づかないか。本日、肉だんごの日。
十月十一日(火) カツアゲと逆ナンの狭間に不老不死の花が咲くと云ふ。
十月十二日(水) 飯を共にする若人より「どうすれば二度と戻らない時間を大切に出来るのでしょうか」との問いが寄せられ「その時々に湧き上がる感情を丁寧に拾い上げることじゃないかしら」と答えたところ、若人爆笑豚丼噴射。丁寧に丁寧に「殺す」という感情を拾い上げました。
十月十三日(木) 久方振りの田園都市線。ほどなく「半蔵門駅での停電により三分の遅れが生じております。ご乗車の皆さま方にはご迷惑をおかけしております」とのアナウンスが入る。たった三分の遅れで大の大人が謝っているではないか。これはもう三十分の遅延を出したのなら謝罪は当然のこと荒狂う日本海にてファミチキを罪と罰でサンドしなければならない。
十月十四日(金) 今日日のガチャガチャは百円ではなく三百円からする驚き。ならばその驚きに乗じてリアル海洋生物シリーズ全八種と銘打つものに挑戦する。狙いは白い死神ことホホジロザメだがその高いクオリティーからカジキマグロや巨大イカでも構わない。いざ小銭を入れてハンドルをゲリンゲリン回したところカプセルがやけに軽い。ギャル男の弔辞ばりに軽い。それでも素直に開けてみると「シェイプ・アップ!」というハイテンションなステッカーが丸まって二枚。ちょ、上のもん出せや。早く。
十月十五日(土) 口喧嘩の際に始めてその者が有する語彙力が赤裸々となるようで。駒沢の学生だろうか、二人の若い男が白昼の道端で顔を突き合わせて口論に。「お前はもう死んでいる」「黙れ小僧」「お前はもう死んでいる」「黙れ小僧」と本人たちは至って真面目にファンタジックなラリーを延々と繰り広げて秋曇り。
十月十六日(日) 半月後に迫るハロウィン。毎年わかりづらいスーザン・ボイルのコスプレで渋谷を闊歩する男がこぼすには「誰かにバレたとき俺はハロウィンを卒業します」とのこと。やかましいわ。
十月十七日(月) マンションのポストに大量のチラシが入るストレスの果て、ついに「チラシ投函厳禁」とのステッカーを貼り出す。しばらくはその効果があったのだが、本日投函を厳禁とする忌々しいチラシをポスト内に確認した。日頃感じていたストレスに加え、わざわざステッカーまで用意した手間をも無視する不埒な所業に怒りが込み上げる。手荒にそれを掴み取り流し目に処したところ「あなたも骨格診断ファッションアナリスト検定を受けてみませんか!?」と。「受けません」と。
fin