水性ヤクザと油性シスター

 

三月一日(水) 家族愛をテーマとした歌詞に取り組んでいるのだが、何気なく書き出した「礼に始まりボディスラムに終わる」というフレーズから離れられずにいる。なんとか捻じ込めないものか。

三月二日(木) 春うらら、神様は飲めるハンバーグや車検を知っている。

三月三日(金)「はい!ウノ言ってない!」と指摘する醜い顔面にこそ二枚のペナルティーがあって然るべきだと思ウノ。

三月四日(土) コンビニで会計をするおじいさんが「あ、それとね、肉まんを一つ頂けると嬉しいです」といった。若干の違和感こそあれど「嬉しいです」という血の通った言葉は世知辛いこの東京砂漠に一雫の潤いをもたらした。ただもの凄く腰の低い強盗の線も否めないが。

三月五日(日) 通話中の若い営業マンより「エリアマネージャーが落馬しまして」という強めの寝言みたいな報告が漏れて聞こえてサンデーアフタヌーン。

三月六日(月) 食レポ系のYouTubeを立て続けに数本眺めるも大概が「わぁ!このお肉柔らかい!」のような紋切り型の感想しか出て来ずに辟易とする。せめて「わぁ!このお肉は高校球児の眉毛のようなその一点のみに命を懸けた畜産家さんの気概が口の中で躍動していて美味しい!」ぐらいは欲しいじゃない。

三月七日(火) 世の中には緊張感を備長炭と聞き間違えて歯を一本失った者がいるのです。

三月八日(水) ある男が結婚を決意した。そのきっかけは自らの性癖に端を発するといい、続を乞うたところなんと彼女との後背位の際には必ずクシャおじさんの顔真似をするという。まさか背後より肉棒を突き立てる彼氏がクシャおじさんと化しているとは夢にも思わない彼女に対していつバレるかわからないスリルを童心に貪っていた。しかし、彼女はとうの昔にラブホの鏡部屋にてクシャおじさんを目撃しており、友人に相談した結果「何かの病気かも知れないから安易に指摘しない方がいい」との結論に至った。だが先日のこと、珍しく酔った彼女が「何か隠し事してない?」とつい迫ってしまった。彼が「んなもん一切ない」と答えた瞬間に「エッチのとき変な顔してるじゃん!病気なら言ってよ!私、全部受け止めるから!」と泣き崩れた。彼は肩を震わす愛おしい女を後ろから優しく抱きしめ、習慣により少しクシャおじさんが出てしまったが気を取り直してプロポーズをしたという。こちらは大人として「おめでとう」と言ってはみたが一抹の不安が残る。そのような結婚の経緯を知った胎児は滅茶苦茶グレてパンチパーマに木刀を背負った状態で産まれて来るのではないか。いや、杞憂に過ぎればよいのだが。

三月九日(木) 深夜の世田谷通りは工事中。チャリの自分に誘導員が「はい、自転車通ります」という。

三月十日(金) 思い返す少年野球の試合にて勝敗を分かつ本塁クロスプレーの最中に主審へ麦茶を差し入れた小沢の母親のような剛勇なるスピリッツが欲しいぜ。

三月十一日(土) アイドル系インディーズレーベルの関係者が悩んでいた。なんでもデビューを控えた女の子二人組のユニット名が未だ決まらず難儀しており「セクシャル且つ二人の生真面目さが伝わるネーミングがあれば」と溜息をこぼす。こちらは湘南の男であり困る者を見過ごすことなど出来ない。一風呂浴びて「マン毛&ゴミ拾い」はどうかとメールしたところ「セクシャルの部分が取り返しのつかないことになっています」との即返が。

三月十二日(日) ユニクロの更衣室にいざ入らんとす若い男が「ヒーヒー言わせてやるから」と彼女に言い残してカーテンを閉めた。どどどどゆこと?

三月十三日(月)  夢の中で都営バスと離婚をした。都営バスと結婚していたのもショックではありましたが。

三月十四日(火) では逆に聞くが君はコンビニを掛け布団とするパワフルな漢になりたくないのかい?

三月十五日(水) 生きてゆく上で大切なことは第一に人間は滑稽な存在と知り、第二に己もその中に含まれていると知り、第三にはAV女優のサイン会は中止になりやすいと知ることにある。

三月十六日(木) 中トロ、えんがわ、えんがわ、中トロ、えんがわ、茶碗蒸し、えんがわ、穴子、中トロ、えんがわ、海難事故的にカマンベールチーズ軍艦、えんがわ、トロたく、あら汁、えんがわ。

三月十七日(金) どうせ愛に辿り着くんだべ?

三月十八日(土) ある男が自宅にて女と情を交えた。事を終えて彼女にイカスミサイダーを勧めたところ「それよりパンツがない」という。ふたりで黒パンツを探すも見当たらず、本腰を入れた大捜索もついには打ち切りとなった。それから一ヶ月を経た先日の昼下がり、趣味のフィギュアを眺めていると真顔のダースベイダーが春を先取る形で黒パンツを身に纏っていたという。知るか。

三月十九日(日) 「よくわからないけど」という言葉ほど誠実なものはない。なぜなら我々人間は森羅万象にただただ浮かぶ笹舟のような存在であるからして「よくわからないけど茂美さんをください!」「よくわからないけど娘を頼む!」というやり取りこそ正しい。ただ「よくわからないけど店長のセカンドバックを揚げました!」という末恐ろしい新人バイトにはきっちり叱るべきだと思う。よくわからないけど。

 

fin