九月一日(日) 後ろから肩をたたかれ振り返ると「だーれだ?」と自らの両目を隠した女がいた。その独創的なビッグミステイクに戸惑いはしたが何の事はない、向こうの人違いであった。今思い返せば全くの他人であるこちらに全くの他人が与えた「一瞬だけ顔から手を外す」というスペシャルヒントが時間差で切ない。
九月二日(月) すべてが錯覚ならそれも錯覚だという思いも錯覚であり又しても錯覚という錯覚ですら錯覚。
九月三日(火) 物に推し量っては不粋なのだが、人生の出来不出来はその家の客人用布団の有無にある。
九月三日(火) 合羽橋にて食品サンプルの製作体験に興じる。初心者にしては海老に衣をまとわせるのが上手だと先生に褒められたところで続く中年白人男性が震える手でカレーパンのサンプルに衣をまとわせた。凍てる雪山にでも行くのか。
九月四日(水) ふいに若者がテレビを一枚と数えた。もはやテレビは油揚げのような扱いなのだろう。
九月五日(木) や、人生は一度きりなのだから何もしなくてもいいのよ。
九月六日(金) 朝肌に秋の微触、ラジオDJが力強く終了しているイベントの告知をカマす。
九月七日(土) まぁ、なんだ、その、他人の個性は迷惑ですよね。
九月八日(日) 近頃では暖簾に高じて通り掛かる店先を見入る習慣に生きている。それが汚れているほど繁盛している道理にも感銘を受けては芹沢銈介の作品集まで触手を伸ばしているところ。
九月九日(月) バイオリニストである葉加瀬太郎氏が神経症を患い「パピプペポが言えない」とのニュースに際する。病は自然なことでありアイス・ラテを吹き出したこちらの反応も自然なこと。
九月十日(火) かんかん照りの世田谷通り。十字架のネックレスを下げてネットに入ったにんにくを携えた若い男とすれ違う。もうなんかドラキュラに対する配慮がなさ過ぎだと思います。
九月十一日(月) マシュマロにまったく興味がないことで逆にマシュマロからの興味を引いてしまっている気がしないでもないような気がしないでもないようで気にしないように気にしてはやはり気がしないでもないような気がしています。
九月十二日(火) 巷に聞き及ぶ尿管結石の尋常でなく最早わけのわからない痛みは「野良犬に給料明細を見せるような」とここに形容させていただきます。
九月十三日(水) 自分より劣る人間しか愛せないの巻。
九月十四日(木) 「モンキーバナナという物があるのだから猿が普通のバナナを食ったら怒りますよ」とでも言いたげな理不尽な豪雨に見舞われる。
九月十五日(金) 偉人の格言が全く頭に入らないのも偉人が成せる驚くべき配慮なのでしょう。
九月十六日(土) 年下の者に「お前なら段ボールを使ってどう自殺する?」と問うた。彼はこちらをしかと見据えて「段ボールに入ったコブラに噛まれます」と答えた。お前何勝手にコブラ発注かけてんのマジで。段ボールクレオパトラがマジで。
九月十七日(日) 今は昔、はなきんデータランドという番組があった。悠久の時を経て同級生が改名を施した「たまきんデータランド」が息を吹き返しては噴飯に至る。くだらねぇのは元よりたまきんのデータは少ないぞぉ。
九月十八日(月) 何気なく社交ダンス教室を覗いていたところ程なくカーテンが閉められた。社交とは名ばかりの仕打ちにBOXステップで対応。
九月十八日(火) いつの日か花言葉を尋ねるようにパンツの色を尋ねられたのなら。
九月十九日(水) パレスホテルにてステーキサンド。「旨いだけじゃ物足りないぜ」との放言が祟り、帰りの扉にサンドされる。
九月二十日(木) 俺は君ではないが君は俺の可能性がある。
九月二十二日(金) ケンタッキーにてセルフレジに困惑する高齢女性をみた。「お先にどうぞ」との申し出を受けるもそれはソフトに排してパネルの操作方法をお教えする。ワンプッシュにつき深々としたお辞儀がついて回り、なんと謙虚なお方なのだろうと思いきや「よくばりセット」をお求めになられた。や、いいのいいの。
九月二十三日(土) 大手術を控える方にアメフクラガエルの尻画像を送ったところ大変に喜ばれまして。
九月二十四日(日) 畏れながら宇宙の創造主は把握されているのだろうか。気心知れた者と飲み交わし、何かの冗談に「もう帰るわ!w」と立ち上がってはややあって着席する一連の営みを。
九月二十五日(月) 近所のおばあちゃんが真っ青なキャッチャーミットを杖でツンツンしていました。ヤシガニの可能性も考慮していました。
九月二十六日(火) 三年前の今頃か、婦警コスチュームに身を包んだ女と事に及んだ。双方即興の才あってか卑猥な取り調べを経て突如お弁当屋を開こうと意気投合。まず二人はオリジンにて修行を積んだ。着乱れた婦警と全裸のこちらで懸命にフライパンを振るう。こちらは全裸ゆえ生姜焼きの脂がはねて「熱ッ!」という細やかな演技も織り交ぜながら。そう、あれは三年前の今頃か。
九月二十七日(水) ある時バカは気がついた。自分はアホなのではないかと。
fin