デラシネの記

 

四月一日(木) まだ夜も明けきらぬ環七は練馬付近のジョナサン。店内は真っ暗であるも青筋を立ててドアをこじ開けようとするエイプリルフールにしては塩がきつ過ぎる大胆なお婆さんを車内より発見。するとカーラジオから穏やかなゴスペルが流れ出し、それが目の前に展開される修羅場に合わさることで真っ暗な店内が死後の世界に見えた。彼女にはまだ死の許可は下りていないらしい。

四月二日(金) 泣く子も舌打ちをする伝説の異種格闘技戦、ジャイアント馬場VSラジャ・ライオンをYouTubeで。やはり何度観ても伝説であり、何度観てもカフェインレス・アイスラテを吹き出してしまう。

四月三日(土) 所用の後、セルリアンタワーで麻婆豆腐。人は美味過ぎるということにも微弱ながらにストレスを感じるものだと悟る。Youtubeの関連動画にジャイアント馬場VSラジャ・ライオン戦が組み込まれていてカフェインレス・アイスラテを吹き出す。

四月四日(日) 実家より甥が小学生になったとの知らせを受ける。そしてスローライフを掲げ、揚々と岩手に移り住んだ友人より「牛に足を踏まれて負傷した」との知らせを受ける。おそらくスローライフゆえに互いが互いにボーっとしていたのだろう。

四月五日(月) 特に何も出来事が起こらないという出来事が起こる。

四月六日(火) アニメ版沈黙の艦隊をYouTubeにて。中学の頃友人の家で夢中になって読破をした思い出があり、今こそアマゾンで全巻を買い揃えようと思い立つも、そのレビューに「外国人の友達がこれは敗戦国のポルノだと言っていた」と書かれており、言葉に尽くせぬ悔しさと悲しさからベランダより夜空を見上げるとそこには図星が暗々として輝く。

四月七日(水) 昨日の件を引きずっているようで気分が冴えない。我ながら平時に穏やかな人柄は見る影もなく、電柱に登る関電工の作業員にカンチョーしたいほど心が荒んでいたところにサイレンを鳴らしたパトカーが通り過ぎる。ふとアニメ版沈黙の艦隊における「海の悪魔」こと主人公海江田四郎艦長の声優を思い切って柳沢慎吾にしてみたらどうか。「魚雷全門発射!」と柳沢慎吾。ピーコックの前でひとりこみ上げる可笑しみを堪えていたのは私です。

四月八日(木)メロンジュースが呼んでいる気がして二子玉へ。その道すがら蔦屋家電のキッチンコーナーに立ち寄る。人をも殺せる大きなポリネシアン風のしゃもじはインテリアも兼ねているらしく、こちらがつい良い反応を見せたものだから店員さんも調子づいて「ボブ・サップの肩たたきにもなりますよ!」と張り切る。無視。

四月九日(金) 久しぶりにスタジオに入る。持参したLEW LEWISはSAVE THE WAILを音が割れるまでボリュームを上げてひたすらドラムをしばき倒す。無数の血豆が裂けてグリップが血潮でぬるぬるするがそんなの知らねぇ。帰路、東南アジア系のファミリーがわんさか乗り込む軽自動車に横づけされ「エチゴユザワ、ドッチデスカ?」と尋ねられた。そんなの知らねぇ。

四月十日(土) 鼻の真下に巨大な吹出物を設置した方が「あぁ、俺、誰かに想われてるわぁ」とおっしゃる。

四月十一日(日) 「宇宙に始まりはないが終わりはある」との近年の学説に触れ、混乱する頭をクールダウンする為に「ホームレスにもハゲはいるの!」と叫んだところ、駐輪場の方より「どわいしょ!」という誰かのくしゃみ、威勢のよい合いの手が入る。

四月十二日(月) 太子堂の空き地に個人で枠借りの出来る畑が興された。幼い子が一所懸命に種を蒔いており、小さな耳たぶが陽に透けている。そこへお祖父さんがネームプレートを差し込めば手書きで「ゴボー」としてあり、ややあって「これプチトマトだよ」という幼い声を背に聞いた。

四月十三日(火) 近所のイカれたおじさんが自販機に「僕、オリンピックやります!」と高らかに宣誓。

四月十四日(水) 前を走る車が座布団を投げ捨てた。横綱が負けたのだろう。以前にはバナナの皮を投げ捨てる車にも出くわしている。マリオカートなのだろう。

四月十五日(木) 古いクリアファイルより十五歳の頃に書いた詩を発見する。タイトルを「血まみれのポセイドン」として物騒ながらにその書き出しは「君をひまわり畑で見失った」と爽やかに肌寒く、その後は失恋を匂わす言葉がネチネチと執拗に連なり「君はひまわり畑で僕を見失った」として得意気に筆を置く。なんでもいいけど血まみれのポセイドンさんがずっと控え室で待ってんですけど!

四月十六日(金) 朝方の富ヶ谷。脇から出て来た車に道を譲ると五、六十代と思わしきおじさんが挨拶代わりか手拳銃をバキュンとして来た。するとこちらも弾を掴み取るなりパラパラと粉々にする仕草。そして数分後、初台の信号待ちで横並びになるという気恥ずかしさったるや、もう。

 

fin