先月に綴った南知多ビーチランドのくだりに強い反応を示す者が近くにあった。
彼はいわゆるZ世代に生息しており、すべての関心事はスマホに内在しているものかと思いきや、日本中のテーマパークをことごとく制覇すること飽き足らず、ついには全国津々浦々の水族館や動物園にまでその触手を伸ばしている。
そんな彼のテーマパーク愛は極まるに際限なく、遠路はるばる勝手に赴いては視察を行い、頼まれもしない改善点をまとめ上げたものを本社へメールするという前世がまったくわからない作業にライフワークを見出していた。
直近では福井に在する芝政ワールドへ「先日レストランのパイレーツカレーを頂いたのですが、あの程度のボリュームでは海賊感に大きく欠けると思います。早急にご対処願えれば」との海賊も二度見するような脅迫メールを送りつけている。
「もうお前こそどっかのテーマパークで働けよ」
「でも好きなことを仕事にすると嫌いになってしまう可能性があるので」
「まぁ、そうか、そうね。え、過去にお前の助言が形になったことってあんの?」
「いえ、ないです。むしろ部外者の提案をすんなり聞き入れるようでは未来はありません」
「試してんだ」
「はい、いつでも本音をぶつけて試しています。これはもう恋愛です」
彼は言に詰まるこちらを気取ると自らの業を綿毛で慰めるように笑ってみせた。
それから数日後のこと、偶然の再会にかの話題も再燃する。
「わかった。もうお前はテーマパークを作れ」
「そんなことできたら最高ですけどね。でもそんな資金などありませんし」
「このマン毛野郎が。だからお前は居酒屋で知り合った外国人から別れ際にコンバンワって言われるんだぞ。とにかくお前の尋常でない情熱が篭った企画書を日本中のスポンサー企業にぶつけてみろよ。おれも協力すんから」
「はぁ、そういうものですかね、いやぁ、わからないですけど、はい」
さて、手始めにして最重要課題であるテーマパークのネーミング作成を紙ナプキンに取り組む。
とりあえずの土台を創業者である彼の苗字をド頭に据えた「米村パークランド」としてみたが地味過ぎてボールペンのインクが出ないというアクシデントに見舞われる。
仕切り直して「米村JOYパークランド」と新規に書き出すがそれでも地味の方で足首をつかんで離さない。
ならば大胆にも苗字の一部を変えて「米田JOYパークランド」と綴るも瞬く間にその意義を失う。
もうほとんど洗剤だけれど「JOY」はどうだろうか、はたまた自棄っぱちの「ディズニースィー」などはいかがであろうか。
「ヨネムランド」は書いた瞬間に取り消し線を引いた。
「こら埒が明かねぇやな。おし、もうお前の好きな言葉から広げてみんか。お前は一体何が好きなんだオラ」
彼は宙を見つめることややあって「硬めのパンですね」といった。
ネーミング作成はひとまず寝かせておき、やはりテーマパークとはシンボルキャラクターにその肝要がある。
「ちなみに全国で好きなキャラクターとかいんのか」
「岩下の新生姜ミュージアムのイワシカちゃんです」
「マントヒヒ界のオールドルーキー?」
「いえ、岩下の新生姜ミュージアムのイワシカちゃんです」
彼のいうままにその場でググってみたところ、着ぐるみのピンクの鹿が直立を披露して前足で愛嬌を示していた。
「まぁ可愛らしいけどそれだけじゃインパクトに欠けるな」
「いえ、この可愛らしさは客層に沿った歴とするインパクトなのです」
その返答には強まる語気があり、つい忘れていた彼の灼熱たるテーマパーク愛を素手でつかんでしまったような心持ちがした。
「じ、じゃあどうすんよ。やっぱり動物系になるのか」
「しかし動物のキャラクターはもう世界中に使い尽くされていますから」
それから諤々と意見を交わし合うにつれこちらの苛立ちは募るばかりであった。
「じゃあもう融合だ融合!時代はハイブリッドよ!馬とサメみたいな!」
そこで彼のつぶやいた一言がこちらの苛立ちを最大限に燃え上がらせる。
「キックボクシングにボクシングを融合みたいな」
「うぉう貴様!それは豚骨醤油に醤油を融合させてるようなもんだろ!ただひたすらにしょっぺぇな!もはやお前を怒るよりお前の親父の金玉を怒りたいです本官は!」
テーマパークのネーミングに次いでシンボルキャラクターの制作に頓挫すると立ち込めるのは暗雲と決まっている。
だがしかし、彼はこのような状況でも決して諦めなかった。
「では園内スタッフのユニフォームを決めましょうか。気分を変えて」
「んなん革ジャンの上からスクール水着でいいだろ」
こちらのひどく投げやりな発言も丁寧に拾い上げて健気に書き出す彼の姿はある種に暴力的であった。
「柔らかく優しい色合いのつなぎなんてどうですか。ベージュ、もしくは薄ピンクのような」
「つなぎねぇ。マジレスすんとつなぎはトイレがしにくいのよ、女なんて特に」
それから一時間以上の話し合いを経た結論とは「動きやすい服装で」という運動会の保護者的な装いに落とし所をつけた。
「ちょ、もうあれだ、一旦まとめてみんべ、仮で」
「えーそれでは発表します。米村ローリングスポーツマンシップス、シンボルキャラクターはマントヒヒのキックボクサー、その名物は硬めのパンにしてその元で働く者たちは皆一様にどこまでも動きやすい服装である、と」
彼はそう言い終えると喜びを拍手に込めてほがらかな笑顔を未来へ向けた。
後手にしてこちらも追っては拍手を重ね、このようなことを思った。
「目の前の者を喜ばせることが出来たのならそこはもうテーマパークなのではないか」
我ながらくすぐったく、咳払いをひとつ。
fin