あなたは私がイカのボディー

 

四月一日(月) 「五カ国に四店舗展開中!」という大胆な広告をみる。それはどこかの一店舗がワールドワイドに国境を跨いでいるのか、それともママチャリを担いだスポーツ刈りのターミネーターに追いかけられながら慌てて書いてしまったのか。

四月二日(火) 近頃は「ペリエとわだす(私)」という官能小説の執筆に勤しんでいる。だが書き出しを「人類最後の生き残りである鶴岡浩二が死んだ」としたばかりに話の見通しがまったくもって勃たないでいる。

四月三日(水) ビンゴカードのフリーをすぐに開ける人が苦手だ。

四月四日(木) 越冬の労をねぎらい、革ジャンにミンクオイルを塗りつける。凍てる季節に彼らとは様々な場所へ赴いた。まいばすけっと三軒茶屋店を中心にまいばすけっと駒沢四丁目店、気の向くままにまいばすけっと太子堂二丁目店、時に血迷いまいばすけっと世田谷淡島通り店。いつもありがとう、来年もよろしく。

四月五日(金) サッカーにはペナルティエリアというものがあり、それはキーパーによる手の使用が認められた場だという認識のほつれからこのようなことに思い至る。なぜキーパーは敵のペナルティエリアまで遠路遥々出張ってはハンドボール的にゴールへ投げ込まないのか。なぜに。

四月六日(土) 真島昌利の歌声を聴くとハッとすんよな。

四月七日(日) 十年後には笑い話になるという巷の言葉を信じて「使用済みおりものシートで殴られたことがある」と近々仲間内に明かしてみよう。

四月八日(月) 通りかかったスナックの看板に「本日ヨーコ&和也とジェントルマン★ゴリラーズが来店!」としてあり「尚、司会のスキップ健は検査入院の為お休みです」とのこと。もう全体的に誰だ!

四月九日(火) 飲み交わす若人が「自分、人に怒れないんす」と呟いた。これより魔都東京CITYに力強く生きて行かねばならぬ分際として情けないではないか。「お前眼鏡取れ!そしてそこのポスターにキレてみろ!ほれ!やれぃ!」と西田敏行がジョッキを掲げるポスターを指差して煽るに煽る。ほどなく彼は己の殻を打ち破るように「このメス豚が!」と怒号を発した。お前一旦眼鏡掛けろ!お前一旦オラ!

四月十日(水) 完全に畳み切ったはずの歯磨き粉チューブから今日もばつが悪そうにニュッと出る。

四月十一日(木) 寿司を重く感じたら鬱病と聞く。いつも明るく安定した方が箸で寿司をつまみ上げる度に「よっ」という。なんだか心配です。

四月十二日(金) 男は常にちんこの存在を感じながら生きている。唯一例に漏れるのはサイレンを鳴らしてジリジリと慎重をもって赤信号の交差点へ進入を試みる救急車の隊員のみである。

四月十三日(土) 前をゆく車に「午後の紅茶」とのステッカーが貼ってある。なんと無意味であろうか。すわ、無糖ってか!?

四月十四日(日) とある水族館のホームページにて赤ちゃんペンギンの名を募っていた。これは奇を衒うことなく「ぺんちゃん」ぐらいの方がこの殺伐とした時世にハマるのではないか。そう思い立って「ぺんちゃん」と記しては送信するも数秒後にエラーメールとして「ぺんちゃん」は突き返された。それから何度送信しても「ぺんちゃん」が列を成してメールボックスに舞い戻る。そのうち苛立ちも極まり、ついには身も蓋もなく「ペンギン」と記して送信したところ小さな地震が発生する。

四月十五日(月) 空き巣と鉢合わせになった方の昔話を拝聴する。帰宅したところまったく知らない作業着の中年男がおり、驚きと恐怖のために裏返る声で「どちら様ですか」と言うことで精一杯だったという。そして物色の手を止めた空き巣の男がややあってまさかの「クレープ屋です」と答えた。結局刃傷沙汰も盗まれた物もなく、それでもクレープ屋と言っていたこともあり一応台所の戸棚を開けて確認したところおたまも無事であった。さらには現在もそのおたまを使用しており「一度見に来る?」と誘われたが丁重にお断りをした次第。

四月十六日(火) iPhoneに八千枚に及ぶ厳選されたエロ画像の貯蔵がある。この度、Webデザイナーの助力を得て最先端の透過技術により八千枚を一枚に重ねた。とんでもなく卑猥でカオティックな画像の誕生と思いきや、その結果は真っ黒。性欲の果てを示す真っ黒。換言にして可視化された死。

四月十七日(水) 女子相撲の、行司が、身につけた、蝶ネクタイの、裏のひだに、時空の歪みが、生じて、ガンジーの、眼鏡のつる先が、出たり入ったりしてたまるか!!

四月十八日(木) コンビニの前で手巻き寿司を頬張る外国人を手巻きカメラで収める外国人をみた。

四月十九日(金) 中学の時分に好きな女を公園に呼び出しては告白に挑まんとす友人が自転車で向かった。仲間共々その合否を待つこと三十分、彼の姿を遠くにみた。それも両手放し運転の彼をみた。あれほど「どちらとも取れる!」と思ったことはない。

四月二十日(土) 人間に嫉妬という反射的な自己愛がなければ、巡り巡って、築地場外の大きなマグロの模型はなかったのかも知れない。

四月二十一日(日) 寝しなに思う。もしも自分が宇宙ステーションの船外作業を監督する立場にあれば、キャッキャとふざけ合う作業員たちになんと注意しよう。「お前ら浮かれてんじゃねぇ!」とだけは場所柄に極力避けたい。

四月二十二日(月) CoCo壱にてかくしゃくとしたおじいさんが「お持ち帰りを店内で」とワイヤレスワイヤーみたいな。

 

fin