十月一日(日) 上冬に際して本年における非常識大賞候補をここに挙げておきたい。やはり最有力は葬儀にてカラオケ好きであった故人を偲んだとはいえ友人代表の弔辞に「爆風スランプ」という前代未聞のパワーワードを涙ながらに練り込んだS氏。次点として東京駅より名古屋に帰郷する友人にういろうを土産に持たせたA氏。本年も残すところ二ヶ月、ダークホースの疾駆を期すれば金木犀が香る。
十月二日(月) この地には古よりスガシカオに爆似のおばあさんを見かけるとミシンのボビンケース運が上昇するとの言い伝えがございます。
十月三日(火) 今日日に珍しくは懐かしい小道を独占して大縄跳びに興じる子供達をみた。そこへAmazonの小箱を抱えた配達員の兄さんが大縄をひょいと飛び抜けては任務を続行する。やだ、かっこよ。
十月四日(水) 人がみた昨夜の夢など懇々と語られたとてその荒唐無稽ぶりに苦痛を覚えるばかり。とはいえ年下の者が嬉々と語るのならば時折の相槌も入れつつに聞くが大人というものであろう。そんな彼がみた夢はスラムダンクパン屋バージョン。「店長のゴリがオーブンへ生地をダンクしたんです」という滑り出しにさっそくこちらの顔面は引き攣るが「レジは彦一のお姉さんでした」という絶妙なリアリティーに救われる。
十月五日(木) 断捨離が高じて危うく自らも断じるところであったと「あっぶねあぶね」とは齢三十八に生きる女。
十月六日(金) それは半シャーベット状の地球外生命体に現地集合の意味を教えるぐらいに難しい。
十月七日(土) 粉チーズの包装を開けたところベリベリとそのすべてを引き裂いてしまう。すると透明の筒型容器に入った粉チーズが丸見え状態に晒された。「あぁ!もう全部見えてるよ!?もう一目で残量が丸わかりだよ!?いいの!?親御さんは知ってるの!?あぁすんごい!いぐ!」と思わず口にしてしまう。今後同じ場面に出くわしたのなら昔見たAV男優の「こんな短いパンツ履いて、違う、短いスカート履いて」というセリフも入れ込んでゆく予定です、はい。
十月八日(日) そら生きてりゃコピー機に詰まったクシャクシャの紙みたいな夜もあんべ。
十月九日(月) この先の未来に待ち受ける悲惨な事件や事故に対して我々は今なにができよう。やはり低脂肪高タンパクの食事を心がけるということなのだろう。あとりんご酢も。
十月十日(火) 酒の席で平成中期に生まれたスーパーヤングな女と口論になり「どうせお前みたいな者はハンセンが天龍のことをテンルーと呼んでたの知らねぇだろ!?」と息巻いたところ「キモみ深し」という捉えようによっては「秋、深し」のような風流な返答が。
十月十一日(水) 「俺はもう今後の人生でパンティーという言葉以外は使わない。よってこれより食すものも自ずとパンとお茶のみになるだろう」と若人に告げたところ「別に無言でメニューを指差したり無言でいくらでも宅配できるでしょうよ」との小生意気な指摘があり「パ、パンティー!」と叱りつけてやりました。
十月十二日(木) 戦争よりもまず先に靴擦れをこの世界から撲滅したい。
十月十三日(金) 彼女と大げんかをしてアパートを飛び出した友人。「ちょっと待ってよ!」と懸命に追いかけて来た彼女の足元はロングブーツに健康サンダル。彼はその常軌を逸した慌て方に深い愛を感じたという。
十月十四日(土) パトカーに向かって手を振る園児たちに警官も笑顔で応える。そんな温かな場面に際してこちらは万感を込めた敬礼を送る。パトカーは停まり「持ち物だけいいですか」と秋晴れの下。
十月十五日(日) 近頃では就寝時にマウスピースをはめて耳栓を装着したのちアイマスクをする。この勢いでゆくとそのうち腹巻やレッグウォーマーが加わり、最終的にはヘルメットを被りマイクを持って寝るようになるのではないかと軽く恐れている。
十月十六日(月) 銀行強盗に刃物を持ち込むより多少手間はかかれどターゲットとした女性行員の中学卒業アルバムをチラつかせた方が万事滞りなくゆくのではないか。
十月十七日(火) ある筋よりゴッホ展の招待券をいただきいざ新宿へ。電車、車、タクシーといった交通手段はあれど、ここはひとつゴッホの精神世界を慮りて歩いてゆこうと思い立った。環七を高円寺方面によちよち延々と歩き、大原より甲州街道、笹塚に差し掛かったところで疲れ切ってタクシーで帰宅。我ながらゴッホに引けを取らない狂気ぶりではないか。
fin