新春を借景としたブスバスガイドバスガス爆発

 

一月一日 (土) おそらく今から百五十年後にはその流動性を利して言葉に変化がみえる。音読みにして「新」は「しん」ではなく「スィン」と読まれていることだろう。「新郎新婦入場」は「スィン郎スィン婦入場」となり「新車で新大久保まで」とは「スィン車でスィン大久保まで」となる。あ、スィン年明けましておめでとうございます。

一月二日 (日) 近所の神社へ詣でれば蕎麦でも手繰ろうとするその帰路に真っ白な犬と出会う。「今年は良い年になるぜ」と確信したところで前方より僧の振り下ろす錫杖の「ジャ、ジャ」という邪気を打ち払うような音にこちらは厳かな心緒を有してそれを迎い入れる。まさか小学生の童が潰れた空き缶を踵に闊歩しているとは。

一月三日 (月) コンソメのゼリー寄せを一生食えないのとフルーツバスケットに一生参加できないという事柄はミリ単位でまったく同等のダメージではなかろうか。

一月四日 (火) 子供が吹き鳴らすリコーダーが聞こえる。昨年の初冬辺りから毎日エーデルワイスが聞こえる。飽きもせず練習に励んだ賜物として今ではメロディーに哀愁が寄り添う形でこちらの私生活を彩る。今日は新たな曲に挑戦するようで「もういくつ寝るとお正月」をおもむろにリリース。あと三百六十日ぐらいあるけど大丈夫か。

一月五日 (水) 対面する者が言いたいことを失念した模様。「ほら、なんだっけ、ほれ、あれなんだっけ」と延々に続けるもので次第にこちらも苛つき、いい加減な態度で「ブラウンシェイビングリポートだろ」といったところ「あぁ!近い近い!」と謎は一層に深まるばかり。

一月六日 (木) 「美味しく頂きました」とは屠殺されたものへの侮辱に他ならない。殺された挙句に美味しいなど亡くなったものは黄泉にて納得できないだろう。そこは無理にでも「すげぇ不味かった!」ということで「ざまぁみさらせ!」と向こうにせめてもの立つ瀬を与える。

一月七日 (金) 昨日の降雪から打って変わる晴天に凍てる歩道は滑りやすく、前をゆく40代とみえる女性が物理の法則に従い大胆に転倒した。実験に失敗した博士のような眼鏡のずれ方をして仰向けに寝転び羞恥に陥る女性に向かい「空は青いかい?」と咄嗟に放って両者赤面。

一月八日 (土) 昨年末に伊勢佐木町へ居を移した者曰く、スープの冷めない距離に暴力団事務所があるという。

一月九日 (日) タクシーを拾ったのなら乗り込む前に滞る後続車へ一礼しましょうか。

一月十日 (月) ユニクロの更衣室でユニクロの服を脱ぎ、ユニクロの服を試着するもあまり気に入らず、買わぬユニクロの服を脱ぎ、自前のユニクロの服を着てユニクロの更衣室を出る。

一月十一日(火) 近所のコンビニで働き始めた東南アジア系のテ君が同郷の先輩であるサヒブ君より防犯カラーボールでスライダーの握りをわりと厳しめに伝授されていた。

一月十二日(水) 「くちびるが薄く、口が軽そうな女」というある噺家の表現に出会い、嬉しくなって工事現場のカラーコーンを蹴り飛ばし、速やかに元の位置へ戻す。

一月十三日(木) 常々に恋愛は水球、結婚はハンドボールだと周囲にこぼしている。なんとなく競技形態が似ているところで恋愛は溺れることもあり、結婚は夫婦水入らずということ。やかましいって?本当にやかましいのは真夜中になにが悲しくて縄跳びをズッタンズッタン始めた上の階に住む外人野郎だろ!オウ、ソーリーじゃねぇ!

一月十四日(金) 平時は凪のように穏やかであるがハンドルを握った途端に大変キレやすくなる男がいる。信号のない横断歩道を猛烈に急いで渡るスーツのおじさんに「もうそんなに禿げてるなら急ぐことないだろ!」とキレた。よくわからない理論に気押されるとこちらも「ナイピー」とよくわからない合いの手。

一月十五日(土) 狭い土地に家を建て、気合いで駐車スペースを作ったはいいが左右ビスコ2枚ずつの隙間しかないという世田谷界隈で時折見かける光景がある。近所のおばあさんも長らく車庫入れに難儀をしていたが近頃ではどうだ、小気味よい切り返しをひとつ繰り出してはびっちり車庫入れを遂行するではないか。それは「成長に年齢など関係ない」と言わんばかりにしてこちらは不意の感動を受けた。先ほどおばあさんが車に乗り込むシーンを初めて見た。サイドドアは物理的に開かないのでバックドアからノソノソと侵入、それはそれは時給で働く覇気のない車上荒らしといって過言にあらず。

一月十六日(日) 己の死後を思うと先人に倣う深遠なる沈黙を現世に醸す自信がない。

一月十七日(月) 無果汁と記された飲料を前にしてなぜか思い出す。少年野球の試合でグローブと帽子をつけ忘れて守備に入ったあいつ。監督の「お前は何なんだ!」との真っ当な怒号も追って聞こえるようで。

一月十八日(火) 二十年前、プロレスラーに憧れてアニマル浜口レスリング道場の門を叩いた男がいる。彼は極度のあがり症を持ち、自己紹介の際にあがりまくってアニマル浜口ご本人に「初めましてアニマル浜口と申します」と言い放った。彼はその単独事故的な思い出だけでこれからも生きてゆけるという。

一月十九日(水) 諸兄に告ぐ。「バナナケースにバナナが入らない」と禅問答のような電話を朝っぱらからカマしてくるような女とは付き合わない方がいい。

 

fin