銀輪のフィットネス

 

オリンピックを来年に控え、こちら極東の地では空前のフィットネスブームが巻き起こっている。

老いも若きも怠惰な生活を悪とし、善とするは手始めのウォーキングに幕を開け野菜を主とするバランスのとれた食生活を基本に適度な負荷運動をかの通念により推奨される。

こと流行りに敏感な若人たちは早々に酒を捨て、またタバコをへし折っては己の肉体を無二の嗜好品とした。

仕事終わりのデートではフィットネスジムにてエアロバイクにまたがり、時折交わすアイコンタクトで愛を育むと前を見据えて理想の自分へとペダルを漕ぎつづける。

ここでフィットネスにあるまじき贅肉のような余談なのだが、先日友人のSがエアロバイクに轢かれた。

「義理のお母さんがリンゴと50センチ定規を送ってきてな。定規の意図を考え込んでいたらドカンよ」

「そらお前定規だけにあんた達のはかりごとはすべてお見通しよ!ってなもんだろ。つか何気にジム通いまだ続いてんのな」

「そらそうよ。ちなみに月三万二千円払っていますから」

「高!月三万二千円のジムってやつはどうなのよ実際」

「素晴らしくポジティブな空気に満たされてるよ。お前みたいにグリグリ考え込んじまうネガティブなやつにはいいかもな。あ、今度見学に来いよ。な、ジムの見学に」

「で、おれが入会したらお前にいくらかのバックが入ると。んなの気が進まないことこの上なしだわ」

「まぁなんでもいいから気が向いたら来いよ」

それから数日が経ち、Sからのメールが届く。

「明日の夜六時から見学の申し込み入れてあるから。一応動きやすい格好でよろしく」

なんて自分勝手な野郎だ。

もうすっぽんぽんにヘルメットで行ってやろうかしら。

翌日、てっきりSも来るかと思いきや「明日から沖縄でゴルフだからいけない」などとぬかす。

お前の座席だけゴルフ場のグリーンに墜落すればいいのに。

日も暮れかかって雀色時、新調したばかりのパープルがイカしたiPhone11を駆使してようやくジムにたどりつく。

やはり高級フィットネスジムを謳うだけあってエントランスは白を基調とした高雅な造作であり、そこに浅黒く健康的な受付嬢を差し色に持ってくるあたり、なかなかどうして小粋にキメてきゃがる。

「亀田さんですね。ご見学のご予約承っております」

嬢の不自然を通り越した神々しい純白の歯に「過去私は漫画喫茶の個室に入ると十中八九シコっていました」と思わず懺悔しそうになる。

ほどなく年の頃二十七、八とみえるトレーナーの兄さんが現れると挨拶もそこそこにスポーツの経験を問われた。

「野球とバレーボール、あと剣道に公文です」

「はい、わかりました。よろしくお願いします」

持ち上げるのはバーベルに限るのだろう、お兄さんは公文という小ボケを持ち上げることはしなかった。

見学と記された名札を手渡され、まずは一階フロアの紹介を受ける。

チェストプレス、ショルダープレス、レッグプレスにベンチプレス。

もうイカせんべいでも作る気なのだろうか。

「では亀田さん少しチャレンジしてみましょう」

それは長州力のサイパンキャンプで見たことがあるレッグエクステンションという器具だった。

すね毛の付け毛という美容業界に喧嘩を売るようなネーミングセンス、嫌いじゃないぜ。

「無理はしないでくださいね」という注意を脇から受けていざトレーニングスタート。

少しばかり負荷をかけた単なる膝の曲げ伸ばし運動と思いきや、さにあらず。

ジム初体験の高揚感が加勢するも五、六回で太ももの力がまったく入らなくなる。

心地よい敗北感。

いつだったか似たような心持ちになったことがある。

あれは二年前の夏、友人の引越しを手伝い一人で冷蔵庫を三途の川を行ったり来たりしてマンションの二階まで運び上げたことがあった。

全身の筋力は底をつき、発育の良い小学生と腕相撲をしたら負けるのではないかという衰弱状態。

そこへ持ってきて友人の驚くべき声が一階より響いた。

「本当にごめん!戻して!冷蔵庫一階に戻して!」

衰弱による幻聴だろうと思い込むも再度響いたその声。

なまじ体力が余っていたのなら「お前もう二階の廊下に住めや!」などということもできた。

しかし著しい衰弱状態がそれを叶えず、妙に達観したようなフラットなテンションでそれに応えたのを今でも覚えている。

「あいよ」

そしてまたも三途の川を行ったり来たり、川辺で釣り糸を垂らす不帰の者に二度見されながら一階まで冷蔵庫を下ろすと全身の筋力はとうに底をつき、赤ちゃんのハイハイ競争に参加をしたのなら五人中四位という極めた虚脱状態。

おれはシーモンキーが孵化するような超ウィスパーヴォイスで友人に迫る。

「…お前…一階でよかったんじゃねぇか…オラ……THE…THE徒労じゃねぇか…お前…オラ」

「本当に申し訳ない、マンション間違えた」

 

二階フロアは更衣室であり、ここでは「チェンジングルーム」というらしい。

さすがは高級フィットネスジム、完全会員制ということで各々に個室が用意してあるだけにとどまらず、至れり尽くせりカウンターに常駐するスタッフが無料でドリンクをもてなすという。

「なにか飲まれますか?」

「え!あぁ、お水ください」

ずらりと並んだ多種のプロテインや果物に気圧され思わずスズメじみた受け答えをしてしまう。

「い、いやぁ、こういってはなんですがあまり人影がみえませんな」

「時間帯にもよりますが、私どもが最も不本意に思うのはただいたずらに会員様を募ることでサービスが隅々まで行き届かなくなってしまうことなのです」

「ははぁ、すると自然高額な月謝となりまたそれが自ずと足切りの効果をももたらすと」

「高額かどうかは個人様のお考え次第ですね。ただ我々はそれに見合うサービスを提供している自負はございます」

一分の隙もない真面目な返答に次ぐべき言葉が見当たらない。

おそらく彼は学生時代にマンコマーク速書き選手権などを経験していない気の毒な人種なのだろう。

「三階はヨガやエアロビクスなどに使われるスタジオとなっております」

なるほど階段の中腹あたりから四分打ちのバスドラがドゥンドゥン漏れて聞こえる。

二重に施工された防音扉の向こうでは女性インストラクターを陣頭に四名の男女がエアロビクスに汗を流していた。

「ご覧になられますか?」

「んん、ま、せっかくなんで、えぇ」

「では私少し外させていただきます。また戻って来ますので」

「はい、お疲れ様です」

重い防音扉を開けるとアグレッシブなユーロビートがけたたましく鳴り響き、ヘッドマイクを装着したポニーテールの女性インストラクターが熱く張り上げる。

「ア、ワン、トゥ、スリ、フォ、ファイ、シッ、セべン、エイッ!」

正面の巨大な姿見から察するに受講する四名は思いのほかお年を召しており、やはりこの国の富裕層を占めるのは高齢者だという縮図をそこにみた。

白髪をお団子にまとめたオーナー夫人然とする女性にどこぞの重役と思わしきおじさんの三名が一心不乱、前後左右にステップを踏めば女性インストラクターのヒップもたぱらんたぱらんと躍動する。

その一通りを眺め、特筆すべきは曲間の無音状態をインストラクターによる手拍子で埋めていたところにある。

もうまるっきし曙町のおっぱいパブと同じ手法を採用しているではないか。

姿見越しにインストラクターと完全に目が合った。

すると人差し指をこちらにクイクイさせて日本人が日本人に「カマン!」という。

「いやいや無理ですから!」とジェスチャーするも日本人が日本人に「カマンカマン!」とマイクを通して煽る。

おれは音楽に合わせて「踊る」という文化を持ち合わせてはおらず、そこには並々ならぬ羞恥と抵抗がある。

なんならもうすでに紙巻タバコからグロー、グローからアイコスを経て再度紙巻きタバコからのグローとタバコ業界に散々踊らされているのでもう勘弁してほしい。

しかし場の調を乱すのはなにより信条に反するところであり、Sにはヤクザまがいの激しいインフルエンザの罹患を願いつつ列の端に静々と加わった。

「ア、ワン、トゥ、スリ、フォ、ファイ、シッ、セベン、エイッ!」

その場での足踏みからボックスステップ、恥ずかしさこそ拭えないが我ながら軽快な身のこなしではないか。

隣のおじさんを見よ、ボックスステップというより徘徊に近い。

思っていたよりも楽しいではないか、エアロビクス。

お次は「エイッ!」のタイミングで一回転の旋回ジャンプをしろテメェらなに見てんだブチ殺すぞという。

「ア、ワン、トゥ、スリ、フォ、ファイ、シッ、セベン、エイッ!」

隣の疲れ切ったおじさんを見よ、もはや息も絶え絶え半回転しかできず一人だけ後ろ向きで着地。

すると正面の姿見に映った「海人」のバックプリントが銛でツボを突きまくってくるじゃない。

「海人が地上で溺れてやがる」

かなり露骨に吹き出してしまうもそれは大音量のユーロビートに掻き消され、ようやく体が温まってきたところだがエアロビクスは早くもラストダンスを迎えてしまう。

その仕上げにしてはいささか地味なもも上げかと思いきや、その後半にはフィナーレ的な小っ恥ずかしいアレンジを付け加えてきた。

「ア、ワン、トゥ、スリ、フォ、ファイ、シッ、セベン、スマイル!」

隣の疲れ果ててほぼ棒立ちの海人おじさんを見よ、もう常に半笑いの事態に陥っているじゃないか。

 

刹那、熟年、海人、酷疲、半笑、崇高、愚生、奈落、墜下。

 

おれはいつからこんな男に成り下がってしまったのだろう。

隣の海人おじさんはどんなに辛かろうがポジティブに努めているではないか。

それをなんだ!おれはその様を笑いものにしては見下し、偽物のポジティブに戯れて本物のネガティブに喰われているではないか!

うみんちゅというイメージから沖縄へ発つSの言葉がよぎる。

「素晴らしくポジティブな空気に満たされてるよ」

もうこの場所には居られない、もうこの場所には相応しくないという心緒だけが唯一の良心だった。

このジムでの最後のトレーニングとなるだろう、重い防音扉を開けて振り返らずにその場を去った。

 

それからというもの、Sからはなにも連絡がなかった。

こちらのメンタル的な理由で入会は断るにしても「で、どうだった?ジム」ぐらいの口切りは誘った以上むこうの義務ではないのか。

煮え切らない数日を経て、未だ痛むももの筋を摩りながら不本意にもこちらから連絡を入れた。

「もう東京に帰ってんの?」

「おん、とっくに」

互いの無言が暫し続くと堪えきれないのはおれの方だった。

「…で、どうだった?沖縄ゴルフ」

「よかったよ沖縄。でもやっぱ俺はハワイの方が好きだな。風土が俺に合っているんだろうね。…あ!」

「ん!?どしたどした?」

「来週炒飯食いに上海行って来るわ」

もうお前の炒飯だけ泥酔したローラが作ればいいのに。

確かにSは一般のサラリーマンが稼ぐ年収よりゼロがひとつ多い。

すると車はオフホワイトをまとうポルシェカイエンであり、汚れたホイールに金持ちのルーズさを醸し出せばその助手席に座る奥方は元ミスキャンパスの美人さんときた。

やっかみ半分でいわせてもらうがSは金を持って変わってしまった。

以前は人の機微に鋭感な男であったが今ではどうだ。

「ア、ワン、トゥ、スリ、フォ、ファイ、シッ、セベン、スマイル!」などと歯茎を剥き出しにしてどったんばったんもも上げの刑に処された友人などもはや気にも留めない。

人は大金を持つとその等価で大切なものを失うと聞く。

おそらくSの場合はおれとの友情を指すのだろう。

人によれば「あんな嫌なやつとは付き合えねぇよ」とあっさり絶交する者もあるだろうが、おれには思い倦ねるところがあった。

なぜなら大金と同等の自らの価値にある種の肯定感を貪るさもしい了見に自覚があるからだ。

結局どこまでいっても金金金の世の中、阿弥陀も金で光る世の中とな。

今夜はなにかくさくさして表でパッと飲みたい。

するとお誂え向き、以前記事に登場した内気な男Fをまんまと三軒茶屋まで呼び出した。

このFという男、これがまた前世で富の神ガネーシャの姉であるアネーシャのティーパンを盗んでじっくりコトコト出汁を取ったのではないかと思うぐらいに金がない。

「久しぶりだね。どうよ景気の方は」

「いやぁ本当に酷いもんですよ。俺、前世でなんかしたんですかね」

「んん、でも金がないのは罪じゃないからね。むしろ金が余計にあるから巻き込まれる厄介ごともあんし」

「そうですよね。あ、自分今年に入って月一でしていることがあるんです」

「なんだべ」

「給料日に全額引き出して自転車で金を轢くんです。主従関係をはっきりさせておくんです。お前は俺に遣われる立場なんだぞって」

「…ははぁ、一種のデモンストレーションだ。まぁ確かに人は誰しも金に遣われてる部分はあるよな」

「そうなんですよ。しかしですね、しかしそんな我ながらの蛮行こそ金に嫌われる原因でもある気がしないでもないんです」

いつになく饒舌に語るFを見据え、触れたくないがそろそろ触れなくてはならないことがある。

「んん、で、その顔面の激しい擦り傷はどうしたの?」

「あぁ、これ。少し前から体を鍛え始めまして」

「お前もかお前もなのか。本当に近頃は猫も杓子もジム通いってな」

「いえ、そんなお金はございませんよ」

聞くところによるとFは権之助坂の急勾配を自転車で駆け上り、下ってはまた駆け上るという繰り返しで体を鍛えているらしい。

もうこの時点でFを力強く抱きしめたい。

高級フィットネスジムなんかに通わなくても気持ちひとつでなんでもできんだオラ!

Fは顔面のかさぶたを摩りながらこう次いだ。

「最初こそいいトレーニングでしたがやはり人間の体はすぐに慣れてしまうんです。そこで考えたのが自転車の重量を増やすことでした」

もういい、Fよ、もういい。

これ以上なにかいったら号泣してしまいそうだ。

「自転車の前後に大きなカゴを取り付け、その中に水の入った二リットルペットボトルを満載にしました」

「…そら重い。そら重かろうよ」

「それがですね、上り坂より下り坂の方が危険だったんです。プラス六十キロ超の重さを侮っていました。いうことを聞かないブレーキとハンドルの合わせ技でガードレールに激突です。ハハハ」

「ハハハじゃねぇ!そんなんちょっと考えりゃわかりそうなもんじゃねぇか!」

「そうですよね。流血しながら散乱したペットボトルを回収するときちょっと泣きそうになりました」

「お前もうそんな危ないトレーニングはやめろよ。怪我しちゃなんにもならねぇじゃねぇか」

「あ、でももう大丈夫です。ペットボトルが吹き飛ばないようにカゴをガムテでぐるぐる巻きにして下り坂は自転車を支えて歩いていますから。これでも相当しんどいトレーニングになりますよ」

「お前まさか常にペットボトルを満載した自転車で生活してんのか?」

「えぇ、やはりトレーニングは毎日の習慣がものをいいますからね。この間はディズニーランドへ行って来ました。彼女は電車で俺は自転車で」

「おまんペットボトルを満載した破廉恥なニューアトラクションを遠方より勝手に持ち込んでんじゃねぇぞ!そもそも夢の国であるディズニーランドに駐輪場なんてねぇから!」

「いえ、ありますよ。普通に」

「よし普通にあるな!じゃあ行く方も行く方なら迎える方も迎える方だな!」

酒乱の気があるFは彼女からきつく飲酒を止められており、それを忠実に守っている様から長っ尻も酷だろうとこの辺りでお開きとした。

「うーおれだけ飲んじゃったよ。悪いねぇ」

「いえ楽しかったです。あ、自転車見ますか?」

西友の裏、前カゴの重量に耐えかねた前輪が急角度で真後ろを向く想像通りの常軌を逸した自転車がひっそり佇んでいた。

今この瞬間巨大隕石が地球に落下し、突然の大氷河期が訪れると我々人類はあっけなく死滅した。

それから何百万年の歳月を経て意思を持つ新たな生命体が地上に現れた。

そこでこのペットボトルを満載するクレイジーを可視化したような自転車を彼らには見られたくない。

なぜならその懸念に相応しく、かの未来にまでしぶとく生き永らえそうな満ち満ちた無駄な生命力をひけらかしているではないか。

そしてなにより気に触るのは一丁前に鍵など掛けてやがる。

「おうおうおう!こんなの盗まれる訳ねぇだろ!お前自惚れてんじゃねぇぞ!」

酔いに任せた語気が思いのほか強く響くと温厚なFがめずらしく反抗的な目をこちらに向けていた。

「俺だってそう思っていましたよ」

そう言い残すと茶沢通りに抜ける小道に消え、程なく戻って来たその手には二本の飲料。

「酔い覚ましです。どうぞ」

「お、おう、miuか。miuって。いや、ありがとう」

大の大人が二人して塀に寄りかかり、しばらく道ゆく人々を眺めた。

「実は先日盗まれたんです」

ことの経緯を語り出したFの表情は次第に憤怒の熱を帯び始める。

「俺はこれまで人を信用して生きて来ました。だから自転車に鍵を掛けることなどなかった。しかしそれをいいことに他人の自転車を盗んで乗り回す人間がいたんですよ!もう人間不信ですよもう!」

その怒りに同調こそできないが「鍵」という性善を疑うことで成り立つアイテムにはごく若い時分に多少思うところはあった。

「ん、でも自転車は無事に戻って来たんだべ?」

「はい。家から十メートル先の路肩に乗り捨ててありました」

おれはmiuおいしい水を一気に飲み干し、アルコールで浮ついた思考回路の浄化に努めては悟る。

乗り捨てるしか手段がなかったのではないか。

犯人は過酷な抜き打ちトレーニングに音を上げて乗り捨てるしか手段がなかったのではないか。

鍵を掛けていない自転車につい魔が差してしまった気の毒な犯人と八百万の神に中指を突き立てるが如く六十キロ超に及ぶ自転車のビルドアップを遂行したF。

おれが本件を執り持つ裁判長だとすれば双方の頰を張り倒して即閉廷、そのあと前室にて「喉が渇いた」と綾鷹を求めるもリラックマのお茶しかないというお付きの事務官に「miuといいリラックマのお茶といいダイドーばっかじゃねぇか!」と叱咤、またも頰を張り倒すことだろう。

「まぁ世の中悪い奴も少なからずいるんだ。少しは勉強になったろ」

「はい、それでも俺は人を信じたいです。そこから何かが始まる気がするので」

「はっ勝手にしろい。じゃあな」

「えぇ勝手にさせていただきます。では」

すずらん通りを力強く、ときにヨレながら進むマジキチ自転車とFの背を見送る。

「おし、帰んか。あ、グリーンブックのレンタル始まってんよな」

TSUTAYAに寄ろうとしたところ、Fが交番の前で刺股も登場しかねない四人体制の職質を受けていた。

おれはそれをスルーして歩を進める。

愛のあるスルーってあると思うんです、愛のあるスルーって。

 

fin